ストレルカの記録場

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医学生、糸結びのやり方

クリクラポリクリ)前の医学生や、研修医向けに糸結びの方法の解説をまとめてみた。糸結びの解説書か何かの補助として利用してくれ。書いてる事に責任は取れない。

糸を結ぶ目的

「ドリルを買いに来る顧客が必要なのは、ドリルではなく穴である。」という話と同じで、糸結びは手段であり目的ではない。なぜ医者は糸を結ぶのか→(1)物体の位置を固定する。(2)物体を縛りあげる。などして治療行為をする為。

(1)男結びと(2)女結び

右手で糸を結ぶ事をX、左手で糸を結ぶ事をYと仮定する。XXやYYのように結ぶ事を女結び、XYやYXのように結ぶ事を男結びとする。右や左はどっちでもいいのでXやYと記号で表している。(例「女結びを2回、男結びを1回する」→XXXY or YYYX)

 

女結びの特徴は「キツく縛れるし、緩められる」だ。腹膜や血管などをキツく縛る時に使用される。”軸糸”という概念があり女結びは極論、棒に1本の糸を絡めているようなものであり緩みやすい。男結びの特徴は「一度縛るとほどけない、輪のサイズが固定され変わらない」だ。顔の皮膚など物体の位置を固定する時に使われる。

 

よく使用される結び方の例として、女結びを数回して一旦適切に縛りor緩め、一番最後に男結びをして固定する。(例:XXY or XXXYなど。)一応警告するが、女結びだけだと、いつかほどける可能性がある。ほどく予定がないなら最後は男結びをしないといけない。因みに、初手から男結びをして失敗したら、糸を切ってやり直しになり患者に負担がかかる。

余談

上記の知識の確認と失敗例の紹介。あるイキリ医学生が女結び→女結び→男結び→女結び(XXYXX or YYXYY)と結びました。一番最後の女結びの意味はあるだろうか?ほぼ無意味である。なぜなら男結びをした時点で輪のサイズが固定されるから、その後に女結びで縛れないからだ。イキって最後に無駄な女結びをする事のないように。

雑談1

「男は〜、女は〜」と受け取れるネーミングは近年の時代に適しているのか…呼び方が変わらないか気になる。ネジ穴などでも「メスネジ」や「オスネジ」、「ジェンダーチェンジャー」という用語があるがどうなるだろう。(ネジは少しセクハラっぽいネーミングだと思う←)

「心臓外科が心臓を縫う時は何結び?」

心臓外科は女結びを特によく使う。なぜかといえば針で心臓に穴を開けて糸を通した後に糸結びを失敗し糸を抜いた場合、その針穴から出血するからだ。失敗が許されない故に、後から緩めたり縛れる柔軟性がある女結びが使用される。

糸結びの練習

外科医は糸結びの練習を五円玉の輪に糸を通して練習する。机の上に置いた五円玉が動かない様に糸を結ぶ。結ぶ時に人差し指で糸を張る事もあるが、結び目の真上に指を押し付ける事はない様に。

 

傷口を結ぶ時に糸で周りを引っ張ってはいけない。個人的な体験だが、親知らずを抜いた時に口の中を縫ったが、糸が組織を引っ張り痛かった(麻酔をしていない部位が引っ張られる)。

 

他にも平行に張った2本のゴム性チューブを結ぶ練習がある。糸を1回結んでみても、2回目を結ぶ前にゴムの張りで糸がゆるむだろう。実際の組織でも同様の事が起こる。そういう時は、はじめに結ぶ時、二重に糸をからめれば糸に摩擦が働くので少しの間はゆるまない。

右手の糸が左手に?(重要)

糸結びの練習用で2色の糸がある。結び方によっては、結んだ後に元々左手に持っていた糸が右手に…なんて事が起こる。その確認用に使える。片手結びなる結び方をすると結んだ後に右左の糸が反転するので、それとなく手品の様に右を左に、左を右に糸を戻してから次を結ぶ。糸が結び終わった後に左右交差している事を知らないと本人は女結びをしているつもりなのに男結びをしている大事故が起こる。練習の時に真っ白い糸でも確認する方法がある。女結びを5回程ゆる〜く結びその後、右か左の糸を引っ張る。女結びであれば、右か左のどちらかが軸糸になっているので真っ直ぐ棒状に伸びる。

 

色々な結び方があるが、糸が早く正確に結べて治療ができるなら極論、結び方はなんでもいい。自分が一番しっくりくる結び方を固定する事が大事。

結んだ時に糸が切れる場合

糸を結ぶ時に我々は右と左など、反対方向に糸を引っ張る。その時に結び目が(X)の形の様に交差しているなら問題ないが、(><)の形の様なお互い引っ張り合う状態だと切れる。結び目をよく見て、糸を引っ張る方向を考えないといけない。

雑談2

引越しなどで荷造り紐を結ぶ時、普通の結び方を忘れて糸結びをする人が多いが、気をつけてほしい。荷造り紐を手術と同じノリで縛ると糸で指を切ります。軍手や手袋を使おう。

雑談3

手術室で研修医などの助手は「手水(てみず)」と呼ばれる時がある。それは生理食塩水を針のついていない注射器などを使って糸を結ぶ術者の手袋を濡らす仕事だ。乾いた手袋では糸が結びにくい。